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イラクは、前回来た1年半前からもっと悪くなって最悪の状態ですが、マスコミ・メディアがそれを報道しないことにはびっくりします。日本でもそのようですね。
先日アメリカは「すべての犯罪はわが米軍によるものだ」と告白しました。ラムズフェルド長官自身が「我々はミスを犯した。イラク占領はよい仕事ではなかった」と認めたのです。ブッシュ大統領は「まだイラクでの使命を果たしていない」と頑張っていますが、その使命というのは結局、多くの女性や子どもを殺すことだったわけです。市場や通りに市民の死体を転がしておく、こんな混乱によってアメリカが勝利したといえますか?
報道機関は努力しているというが、真実の報道には届きません。200人殺されたとして報道されるのは5〜10人、事実とはこれくらい開きがあります。イラク現政権の大臣たち、政党のリーダーたちは本当のことを言いません。彼らが気にするのは自分の地位、大臣のイスだけです。
省庁や政党を率いる政治家全員には大小さまざまな民兵組織がついていて、それらの民兵が殺し合いをする、そういう混乱状態になっているのです。この無秩序に占領軍は何もできず、暴力をただ見ているだけ。止められないし止めようともしません。どこかで爆弾が周囲を殺傷しても驚きもしないし黙っています。
現在アメリカ軍は罪なき人が死んでも何もせず、宗派間の争いも民兵同士の殺し合いも黙認して、結果的に対立抗争をあおりました。占領政策はまったくの失敗です。
アメリカ軍が来る前は、私たちはスンニかシーアかなど意識せず暮らしていました。イラクは一つで同じ市民としか思わなかったからです。アメリカはこの違いをあおることによって、イラクを二つか三つあるいはそれ以上に分割して支配しようとしています。それがコントロールしやすい方法だからです。
今やイラク政府の大臣も官僚も人民のことをかえりみず、各省庁バラバラに自分たちの利益のためのみで抗争を繰り広げています。
ブッシュ大統領がこの混乱を解決するのはまったく無理でしょう。イラクの人々は根本的な変革を求めているからです。すべての人々が納得できるリーダーを、無実の人が殺されないような政府を望んでいるからです。私たちがつくりたいのはアメリカの影響を受けない独立した政府、宗派からも民兵集団からも中立の統一政府が必要なのです。
開戦から4年たちましたが、たくさんの復興費があったにもかかわらず、どのビルも建て直されないし、どのライフラインもどの病院も学校も復旧していません。学校は再開できず、平和は失い、治安はなくなりました。これがアメリカのやったことです。
占領軍はアルカイダなどのテロリストがイラクに入るのを取り締まりません。そんなことを真剣にはやらないのです。9・11テロの前も後も、アルカイダのようなグループはイラクにいませんでした。イギリスの大きなテロ事件犯人もイラク人ではない。(アルカイダはエジプトやサウジの人間が多いので。)
そういうわけで私はイラクの人々に対して、今申し上げたようなイラクの真実を多くの日本人に伝える、という責任があります。ではこれから写真と映像をお見せします。
<写真例 > ある一家の少年たち
この一家が自家用車で移動中に米軍の戦車に出会い、父親があわてて引き返そうとしたところ、戦車の上から銃撃されました。両親は死亡、この兄弟は助かったが、ショックで家から出られなくなってしまいました。ひどいPTSD症状です。
ほかにも例えば、暑い夏の夜に、屋内では眠れないので天井の上に出ていたら、米軍の戦闘ヘリが飛んできて撃たれた。など。
……アメリカ軍の兵士はあちこちでこういう犯罪を犯しています。なのに捕まらないし罰されない。イラク人は罪もなく毎月4000人以上、殺されています。これが本当の数字です。時折メディアは大きな犯罪や爆弾テロをニュースにして死者数を言いますが、ほとんどの場合は報道されません。
<写真例 > サラハさんの場合
改築中の彼の自宅で仕掛け爆弾が爆発し、仕事中の大工たちが逃げ出したら、米軍は彼らをテロリストだと決めつけてサラハ宅を攻撃しました。
……アメリカ兵はすぐに発砲します。確認もせずに。
サマワはまずまず安全でしたが、自衛隊のいた時とその後と悪くなっている。夜間外出禁止令が出ています。サマワ州政府は状態改善しようとしません。選挙でなく占領軍任命の知事で、責任を取ろうとしないのです。デモが水や電気や職をよこせと要求しても耳を傾けません。どころか、デモ隊には州政府・警察が厳しい弾圧を加えます。発砲されて死傷者も出ています。
比較的安定した小さなサマワ市でもこの調子なら、他の都市はどうなっていることか。
イラクは有数の産油国なのに、発電機を動かす石油がないためにこのありさまです。ガソリンの値段は急騰していて、車を4回満タンにすると1ヵ月の平均給料が飛びます。灯油も急騰、ろくにストーブが焚けません。この状態を想像してみてください。
失業者が多いのですが、給料がよいのは国軍と警察。しかしとても危険な職業なので、家族を兵士や警官にしたがる人はいません。
アメリカ軍占領当局はイラク人を分断して支配しようとしています。例えば、私の一族は半分がスンニで半分がシーアです。アメリカが来る前は当然一緒に住んで、結婚し合ったりもしていました。占領後にスンニとシーアは離反して、別の一族のようになってしまいました。
アメリカは内戦が起きて泥沼になるのを待っているわけです。内戦になると人々は相対的に占領状態を忘れ、アメリカ兵はそれだけ安全になるのですから。
<写真例> サッカー選手ワリード
写真の青年は外を歩いていた時にテロリストと疑われて銃撃され、左足と左目視力を失いました。彼は職をなくし、好きなサッカーもできなくなりました。
……発砲した米兵は質問もせず、彼の姿を見て怯えただけだったのです。彼の境遇を想像してみてください。イラクの困難な状況とともにこの先を考えて、彼は失意の底にあります。
<写真例> 爆発で足を切断した買い物客
この人が市場で買い物していた時に爆発があり、足を飛ばされました。この包帯や医療器具は、私がみなさんのカンパから買ったものです。日本のみなさんにお礼を言われましたよ。
……イラクどこの都市も危険です。バグダッドでも私の住むバビロン州ヒッラでも。生き延びたければ市場など人の集まる所へ行かないことです。人出のある所はテロリストに狙われますから。
<写真例> 拘置中にリンチで足を失った男性
テロリスト嫌疑で米兵に家に踏み込まれ、拘引されてブンカ刑務所へ入れられたこの人は、リンチで片足を失いました。
……刑務所には根拠なく入れられた人も多いですが、中には本物のテロリストもいます。彼の場合、監視米兵に「連中と同室にしないでくれ」と頼んだのに聞き入れられませんでした。結果、室内でリンチにあったのです。
彼はまさに占領政策の犠牲者です。以前の仕事はできなくなり、これからどうやって生活せよというのか。占領軍が出て行かない限り、この種のことは繰り返されるのです。
<写真例> 爆発で息子を失った母親の嘆き
息子はまったく一般の市民でした。
<写真例> アルカムさん
顔写真の下に名前と死亡日が書かれています。2006年7月22日、米軍の戦車から撃たれて死亡。彼は自分の店の前に立って戦車を見ていただけです。
これが、アメリカがイラクでやったことです。非常にむごいことです。誓って申し上げますが、この人たちは占領軍に武力で抵抗しようとしていたわけではありません。平和的に市民生活をしていただけです。
<写真例> 自爆テロに巻き込まれたアリー
彼がヒッラからバグダッド行きのバスに乗っていた時、体に爆弾を付けたテロリストが乗ってきて、乗客のほとんどが死亡しました。
アリー青年は結婚を間もなくに控えていたそうです。引き取りに来た家族が捜しましたが、遺体はバラバラに吹き飛び、どれが誰のものかもわかりませんでした。
<写真例> テロリスト
自爆テロリストは色々と偽装しますが、この男は女装――女性の黒ベールを被ってチェックをごまかし、爆発物を街頭の集まりに持ち込んだところで見つかりました。
……イラク警察はこういうのを取り締まりません。この男を捕まえて突き出したのは一般市民です。これはほんの一例であり、警察が機能しないのでテロが頻発して、市民が巻き添えで死ぬ例が絶えないのです。
<写真例> 視力を失いかけている子ども
医師によると、この子には効く薬も手に入らないとのこと。
……衛生状態が悪くて病気になる者も増えています。薬が乏しいので、普通なら何でもない病気が治らない、ひどくなる例も。
薬の欠乏以上に問題なのは、治療技術を持った医師が命を狙われてイラクから逃げ出していることです。一部の民兵組織が医者を狙い打ちで追い出しているからです。だから薬がなくて医者がいない、という状態になりつつあります。
《西谷:彼の持ってきたビデオは40分もあるので、一部だけ映写したいと思います。》
<ビデオ/ヒッラ>
これはヒッラ市で起こった、大きな自爆テロのようすです。
市場の中で大きなタンクローリーが爆発したのです。午後なかばで人々は買い物中、多くの人が巻き込まれました。妻や息子を心配して集まった人たちが、探しに入りたいが中に入れない――という場面。
事件の報道で約100人死亡と発表しましたが、実際は400人以上死んでいます。多くの商店が火災で焼け、あとで焼死体がたくさん出てきました。家族身内を探しにきたがいまだに見つからない人が大勢います。
アメリカ軍のヘリコプターが画面にちらりと映ったのが見えましたか? 彼らは見ていましたが、何もしません。消防車の1台も呼ばないのです。ここは私の町なので、死亡者の中には友人知人が何人かいました。
<ビデオ/サマワ>
2005年夏のサマワのデモです。デモをかけている先はサマワ州政府。
デモ隊がさっきから乱れてますね。警備隊が発砲して死者が出て、人々が抗議して石を投げたりしてます。警備隊がデモの人々に撃ってます。
この「水よこせ・電気よこせ・失業なくせ」デモは州政府を転覆しかねないので、州政府役人は自分の保身のためだけに殺したのです。見てわかるように、人々は武器を持っていない。投石くらいですよ。それに発砲して、死者を3人出しました。
アメリカのいう民主主義はどこにあるのですか。「イラクに民主主義をもたらす」とか言って侵略してきたのだったでしょう。
このデモに参加した人に聞きました。州政府は市民の生活を助ける政治を全然しなかったそうです。水も電気も失業も改善されない。だから市民は怒って、連日のデモになったのです。 ……このへんで映像は止めます。
最後にひと言。
今見ていただいたことは歴史になります。イラクの人々は子や孫に語るでしょう。将来にわたってこの戦争の真実を伝えるでしょう。軍隊を送るということは結局、子ども・女性・罪なき人々を殺すことになります。
人道支援をするということは、その国へ平和の橋を架けること。政治的主張がどうこうというより前に、政府がどうであろうと宗教が何であろうと、私たちは同じ人間です。この世界に住む人類として、平和と自由を求めていきたいと思います。
皆さまから寄せられるご厚意と、ご静聴ありがとうございました。
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Q:イラクすべての人が納得する政府ができる、その可能性や兆しはあるか?
A:多くのグループが納得できる政府を望み、活動しています。まじめに取り組む人ほど現在の政府はだめだと思っていて、政府に入って改善しようとはしません。まともな統一政府を考える人を占領軍は登用したりしないので、知られていないだけですよ。民兵集団や宗教団に利害関係のない人でつくる政府を、構想する人々がいるのは確かです。
Q:刑務所でリンチされた人は出られたのか。取り調べはどうだったか。
A:もちろん出獄してから証言したのです。わざとか人が足りないのか、取り調べをするのはだいたい3ヵ月に1度。無実でも3ヵ月は拘束されます。1度で無実の証明ができなければまた3ヵ月。彼は何もしていないのが認められて釈放になりました。
Q:どうすればイラクの病院に薬が届くのか?
A:信頼できる届け役がいて、その人がイラク保健省や病院にコネがあれば、薬を届けることも不可能ではない。自分も少量だが届け役をしたことがあります。
Q:アメリカがそうした支援物資の配布を邪魔していると聞いたが、本当か?
A:それが本当かどうかは確かめられないが、現イラク政府はすべての人道支援物資を拒否する傾向にあります。アメリカの傀儡政府ですから。そのような援助を認めることは国内の混乱を認めることになるからです。
一つの例で、ドイツに出稼ぎしているイラク人たちが薬を買い集めて送ってくるのは、彼らが個人的にコネのある病院長です。保健省を通さないルートがあれば、まっすぐに入ります。しかしそういう薬は高いという難点がありますから。
Q:生活はどうやって? 食糧は足りているのか。
A:よく尋ねてくれました。一般の人々はサダム時代に飢えてはいなかった。配給制度があったからです。毎月配給カードが出て、食糧カードもあった。今でもカードは出ますが、食糧カードが少なくなりました。特に主食の小麦や米。だから貧しい人では金を出して買えない、飢えていく傾向にあります。
農業もこの戦争でダメージを受けていますし。理由の一つは、作物そのものがダメになっていること。ナツメヤシがたくさん枯れています。おそらくウラン弾などが多量に畑に落とされたから。もう一つは、農民が耕作できない状態であること。難民になったりしていて、生きるだけで手一杯。
だから食料は輸入に頼るようになっています。でも輸入食料は高価で配給品目にならないし、これから飢える人は増えるでしょう。
Q:武装勢力の武器は旧軍のものとか? 外から入ったりするのか?
A:武装勢力が使っている武器はイラクで作られるのではありません。密輸品がほとんどです。まわりの国、イラン・シリア・クウェート・エジプト・サウジアラビアなどから入ってきます。
イランやシリアは、イラク戦争が終わったら次は自国に飛び火する確率が高い。イラクがアメリカと戦争中のほうが相対的に安全だから、武装抵抗グループに武器を渡して応援する。エジプト・サウジ・イスラエルは親米国家だから、内戦を起こさせるために武器を流す。――どちらでもイラク人が死ぬことになります。
Q:イラクに送って喜ばれる薬はどんなものか?
A:病院でお願いされたリストを持っていますが、多種にわたります。高度の専門薬よりむしろ単純なよく使うものが必要でしょう。けが人も多いので包帯や消毒薬、かぜ薬・下痢止めなど一次救急に使うものを。抗ガン剤もいりますが、もとは安い薬が今は値段がつり上がっているのです。
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